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腎臓⑨

  • Category: 腎臓
  • 2023.04.28

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皆様こんにちは、相生町店の鈴木です。すっかり暖かくなり、過ごしやすい季節になってきたと思ったのも束の間。一気に気温が上昇し、車で外回りをすることの多い我が在宅部のスタッフはみな汗だく。
一足先に衣替えの季節を迎えようとしています。

さて、前回の予告通り、今回は「腎臓病の食事療法」についてです。それなりのボリュームになりそうですので、今回は、、、
①CKDステージごとの食事療法基準
②エネルギー
③タンパク質

について紹介させていただき、次回、④ナトリウム(食塩)、⑤カリウム、⑥リンについて紹介させていただこうと思います。
アレもダメ、コレもダメ、とならないよう意識しながら情報発信していきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。


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①CKDステージごとの食事療法基準

腎臓病の食事療法ではCKDステージ別に基準が設けられています。
まずは全体像をつかんでいただくのが分かりやすいかと思いますので、CKDステージごとに設定された各栄養素の摂取基準を表1に示します。
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解説すると

  • エネルギーはCKDステージに関係なくきちんと摂取する
  • 食塩はCKDステージに関係なく制限する
  • タンパク質カリウムCKDステージに合わせた制限を行っていく


といったところでしょうか。

え?? イメージしにくい!?

それでは、表1を参照しながら問題にチャレンジしてみましょう!!

問題)CKDステージG3b、体重50kg方の栄養摂取基準は?

▼答え▼
  • エネルギー

(25~35)(kcal/kgBW/日) × 50 (kgBW) = 1250~1750 (kcal/日)

  • タンパク質

(0.6~0.8)(g/kgBW/日) × 50 (kgBW) = 30~40 (g/日)

  • 食塩

3g以上6g未満/日

  • カリウム

1500mg/日以下

いかがですか? 具体的に計算することでイメージが湧いてきたのではないでしょうか?
ところで、表1を見て「おや!?」と思われた方。
気づきました? さすがです!!

CKDステージG5で「透析」が除かれていますね。
腎臓コラム⑦、⑧で取り上げましたが、透析(腹膜透析、血液透析)は腎代替療法といって、腎臓のはたらきを肩代わりする治療法でした。透析治療を開始すると、体にとって不要なもの、過剰となっているものを体外に排泄するはたらきが補われるため、食事制限を透析導入前(保存期)よりも少しゆるめることができるのです。
ここで、透析を受けている方の食事療法基準を表2に示します。透析期の食事療法基準では、保存期と比べタンパク質やカリウムの制限がゆるくなっている一方で「リン」が追加になっています。これについては次回のコラムで取り上げたいと思います。2.jpg
ということで、全体像がなんとなく見えたと思いますので、ここからはもう少し具体的に、注意すべき項目について掘り下げていきたいと思います。

②エネルギー

表1の再確認にもなりますが、保存期CKDの方の摂取エネルギー量は、ステージに関係なく健常人と同程度、体重1kgあたり25~35kcal/日が基準とされています。人間は摂取カロリーが不足すると筋肉から痩せていってしまうため、これを回避するためにも、「エネルギー(カロリー)をしっかり摂る」ことが基本となります。
食事制限を頑張りすぎた余りエネルギー不足になってしまった、というケースもよく見かけます。エネルギー摂取量を確保しつつ、その他の部分で制限をかけていくという所が、食事療法の非常に難しい所であり、大事なポイントでもありますので押さえておいていただければと思います。なお、その実践方法については次の③タンパク質の項でお示ししたいと思います。

※注意※
必要エネルギー量については、年齢、性別、生活状況、肥満度、糖尿病の有無などを考慮して個別に設定するのがベストですので、表1はあくまで参考にとどめ、かかりつけの先生がいらっしゃるのであれば、そちらの先生の指示を優先してください。

③タンパク質

タンパク質の摂取量は、CKDステージ3a以降、腎機能に合わせて減らすことになります。
食事から摂取したタンパク質は、体の中で我々の生命維持に欠かすことのできないアミノ酸へと分解されるのですが、同時に、老廃物の一種である窒素代謝物も作られます。腎臓が元気なうちはこの老廃物を体外にうまく排泄することができますが、腎臓が弱るとそれら老廃物をうまく排泄できず、体内に残った老廃物が、ただでさえ弱っている腎臓に追い打ちをかけるようにダメージを与えてしまうからです。

ただし、透析患者さんでは、透析により老廃物が体内から除去されることもあり、タンパク質の摂取制限は緩和されます(表2)。むしろ、ある程度の量のタンパク質を摂取した方が長生きするということも複数の論文で報告されています。
つまり、透析開始時には、それまで徐々に減らしていたタンパク質の摂取量をそれまでとは逆、つまり増やすことになるのでご注意ください!!

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さて、タンパク質の摂取量を抑えるとなると、まずは食品の成分表を見て、それぞれの食材に含まれるタンパク質量を知って、タンパク質を多く含む食品の摂取量をほどほどに抑えて、といった流れになるのが一般的かと思います。

でも食べたい。。。ですよね?

そこで、タンパク質量を抑えた「タンパク質調整食品」の活用を検討してみてはいかがでしょうか?

例えば、ご飯(茶碗1杯:180g)をタンパク調整ご飯に置き換えた場合、タンパク摂取量を4.5gから0.2gに減らすことができるのです。

タンパク質調整食品には、ごはんやパンといった主食に加え、麻婆豆腐や酢豚などの惣菜もありますので、これらを組み合わせて献立を考えることで、タンパク質制限がうまくできそうに思います。
参考までに、タンパク質調整食品を紹介しているサイトの一例を示します。

タンパク質調整食品を紹介しているサイト例

キッセイのヘルスケア情報おいしい365日

他にも色々なサイトがありますので、「タンパク質調整食品」というワードで検索してみるとよいかと思います。

また、タンパク質調整食品もいいんだけど買いそろえるのが面倒、という方には、低タンパク食の宅配弁当もありますので、そちらを活用いただくのも一案かと思います。
こちらも参考として、自分が見つけた宅配弁当の案内を示します。

▼低タンパク食の宅配弁当サイト

心の繋がり・高齢者配食サービスLIFEDERI

これについても色々な会社がありますので、下記の注意点を確認の上で、検索いただくとよいかと思います。

※宅配弁当を選ぶ際に注意いただきたいこと※
低タンパク食の宅配弁当を探していると、「腎臓病や透析を受けている方に」とうたう宅配弁当を目にすることがあるかと思います。上述のとおり、保存期CKDの方と透析治療を受けている方では必要なタンパク質の量が異なりますので、「腎臓病(保存期CKD)食」または「透析食」、ご自身に合ったお弁当を選択する必要があります。先ほど記載した宅配弁当ではそれらがきちんと区別されていますが、中にはそれらを区別せず、腎臓病の方にも透析治療中の方にも適した弁当として扱っている会社もありますので、ご注意いただきたいと思います。

※タンパク質を制限する上での注意※
先程、②エネルギーの項でも触れましたが、タンパク質を控えることだけに目がいってしまうと、知らぬ間にカロリー摂取不足に陥ることがあります。「うっかり低栄養」とでもいいましょうか。
これを回避するために、タンパク質以外の栄養素である、「糖質」や「脂質」からうまくカロリーを摂取する方法があります。具体例を2つ紹介しますので参考にしていただければと思います。

その1 調理方法の工夫

高血圧コラム➄の冒頭で、ナス好きの弊社スタッフから、ナスの食べ方についてコメントがありました。
「焼いてもよし、揚げてもよし」
糖質や脂質からうまくカロリーを摂取するのであれば、調理に砂糖や油を使うとよいので、そのような目的がある方は「揚げるのがよし」でしょう。
ちなみに1人前あたりの目安ですが
焼きナス 27 kcal
揚げナス 165 kcal  だそうです。 
(文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」)

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その2 カロリーアップ食品の利用

タンパク質・塩分・リン・カリウムを抑えながらもエネルギーを補給できる食品があり、それらは「カロリーアップ食品」と呼ばれることがあります。ここでは、その代表例である「粉飴」と「中鎖脂肪酸(MCT)」にフォーカスしたいと思います。

粉飴

粉飴は、でんぶんを原料に作られた粉末で、甘みを抑えた砂糖というとイメージしやすいかと思います。粉飴100gあたり388kcalと、砂糖と同じエネルギー量でありがら、甘さは砂糖の5分の1程度と言われています。これを砂糖代わりに使えば、砂糖と同じだけの甘みを得るために、より多い量を消費する必要があるため、カロリーアップにつながります。

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MCT

普段我々が食事から摂取する脂質は、「脂肪酸」と「トリグリセリド」という成分からできています。この脂肪酸には種類があり、一般的な植物油に含まれるのが「長鎖脂肪酸」、ココナッツやパームの種子などのヤシ科の植物に含まれるのが「MCT」です。
MCTは長鎖脂肪酸と異なり、摂取した後、体に蓄積されずに効率よくエネルギーとして消費されます。粉末タイプやオイルタイプのものがあり、調理に使ったり、できあがった料理にふりかけたりして使います。腎臓病の方だけでなく、低栄養状態の方のエネルギー補給にも適しています。

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今回のまとめ

CKDの食事療法では、ステージに関係なく、まずはエネルギーをきちんと摂取する。

ナトリウム(食塩)についてはCKDステージに関係なく摂取量を制限していく。

タンパク質カリウムについてはCKDステージに合わせて摂取量を制限していく。

タンパク質の摂取基準量は、保存期CKDではステージの進行に伴い減少するが、透析を導入すると同時に増加するので注意する。

タンパク制限を助ける手段してタンパク量を調節した食品宅配弁当がある。

ただし、「腎臓病や透析を受けている方に」とうたう宅配弁当を利用する際には、「腎臓病用(保存期CKD用)」「透析用」の区別に注意する。

「うっかり低栄養」を回避するため、調理法を工夫したり、カロリーアップ食品を利用したりして、糖質や脂質からカロリーを摂取するとよい。

食事療法は日々継続して行うものなので、実践することは非常に大変なことかと思います。少しでも皆様のサポートができるよう、当薬局でも腎臓病の方向けのお料理レシピ、宅配弁当、食品などを紹介させていただいております。どうぞお気軽にご相談ください!!

次回は腎臓病の食事療法-後編-として、ナトリウム、カリウム、リンについて紹介したいと思いますのでお楽しみに~!!