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腎臓⑤

  • Category: 腎臓
  • 2022.12.23

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皆様こんにちは。やまうち薬局の鈴木です。一気に気温が下がり、いよいよ冬本番という感じになってきました。

私はもともと水分をあまり摂らない質(たち)ですが、冬になるとさらに水分を摂らなくなります。毎日職場に500mLのお茶を持参していますが、勤務終了後のお茶の姿がこちら。

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勤務時間内には半分程度しか飲まず、残り半分を家に持ち帰ることが多いです。

さて、前回のコラムでこれから慢性腎臓病(CKD)の予防や治療について紹介していくと宣言しました。今回はCKDに該当する方、しない方、いずれにも共通する内容として、CKDの発症や進行の「予防」に焦点を当ててお話したいと思います。

考え方はいたってシンプル。腎臓病の発症や進行を予防するためには、それらに関わる要因を回避(適切に管理)すればよいわけですが(言うは易く行うは難し)、では、それらに関わる要因には一体どのようなものがありますでしょうか?
調べてみるとたくさんのワードが挙がってきます。

・高血圧
・糖尿病
・肥満
・脂質異常症
・高尿酸血症
・喫煙
・痛み止めなどの常用薬
・急性腎障害

これらの中で、筆頭に挙げた「高血圧」は腎臓病の発症や進行を予防する上で欠かせない要因になりますが、別のコラムですでに取り上げていますので、管理方法についてはそちらをご参照ください(高血圧コラム5はこちら)。
また、それに続く「糖尿病」も透析導入の原因となる疾患の第1位として知られていて(「透析」については後にこの「腎臓」のコラムで取り上げます)、その管理は非常に大事ですが、こちらも新年から糖尿病のコラムが始まりますので、そちらを参照いただきたいと思います。
というわけで、今回はちょっとマニアックで、でも重要な「急性腎障害(acute kidney injury : AKI)」に焦点を当てたいと思います。

それでは、AKIとは何ぞや?

聞き慣れない方も多いかと思いますが、呼称からお察しの通り、腎臓が悪くなる(障害が起きる)病態です。もう少し専門的に申しますと、

1.48時間以内に血清クレアチニン値が0.3mg/dL以上上昇
2.48時間以内に血清クレアチニン値が基礎値から1.5倍に上昇
3.1時間あたりの尿量が0.5mL/kg以下の状態が6時間以上続く

これらのいずれか1つでも当てはまった場合がAKIということになります。

ここで、AKIを起こした場合の腎機能の経過パターンを2つ、図1に示します。 

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「A」は適切な治療を行うことにより腎機能がほぼ元通りに回復するパターン、「B」は適切な治療を行っても腎機能が元に戻らず、CKDへと移行するパターンです。
残念ながら、AKIを起こした後の腎機能が「A」の経過を辿るケースは少なく、多くが「B」の経過を辿ることが知られています。
そのため、長く腎臓をいたわるためにもAKIを起こさないことは重要な要因の1つと考えられます。

ともすれば、AKIをどうやって回避する?ということになろうかと思います。
AKIを起こしやすい状況として、心不全、肝不全といった臓器不全、出血などが知られています。これらを回避するとなるとちょっと難しそうですが、身近なものとして、風邪胃腸炎尿路感染症などの「感染症」下痢嘔吐発汗などによる「脱水」、などもAKIを起こしやすくする要因として考えられていますので、これらの回避について考えてみたいと思います。

冬は気温が下がることで汗をかかなくなり、喉が渇きにくくなりますが、汗をかかない冬であっても常に体からは水分が蒸発しています。また、空気が乾燥していますので、自覚している以上に体から水分は失われています。冒頭で述べた鈴木のように水分の摂取量が少ないと、冬でもいわゆるかくれ「脱水」を起こしてしまいます。

また、冬は風邪胃腸炎が流行することが多く、それら「感染症」にかかり発熱すると普段より多く発汗しますし、特に胃腸炎では下痢嘔吐を起こすことが多いです。発汗下痢嘔吐は体の水分を外に出しますので、結果的に「脱水」につながります。

さらに、冬の気温低下に伴い体が冷えるとトイレが近くなりますが、トイレに行く回数を減らすために水分の摂取量を減らす方がいらっしゃいます。これもまた「脱水」につながります。中には、トイレに行くこと自体を控えたりする方がいらっしゃいますが、それはそれで尿路の「感染症」にかかりやすい状態を作ってしまいます。

このように、冬はAKIを起こしやすくする要因が重なりやすいため、感染対策脱水対策を十分に心がけていただきたいと思います。特に、ご高齢の方や糖尿病をお持ちの方はAKIを起こしやすいと言われていますので、注意が必要です。参考までに、それぞれの対策について簡単に触れておきます。

感染対策

新型コロナウイルス感染症の流行下、みなさんよくできているように思いますが、手洗い、うがい、マスクの着用、人混みを避ける等、基本的な対策を徹底してください。そして、尿路感染症の予防のためにも、トイレは我慢しないでください。
なお、先に述べたように冬は胃腸炎の流行も懸念されますので、鈴木は大・大・大好きな生牡蠣の摂取を控えるよう心掛けています(泣)。

脱水対策

こまめに水分を摂取するよう心掛けてください。目安として、体重60kgの成人の場合、1日1200mL程度、食事に含まれる水分とは別に水分を摂取していただく必要があるようです)。特に入浴中や就寝中はたくさん汗をかき水分が不足しがちなため、入浴後と起床時にコップ1杯程度の水を飲むとよいようです。
★もちろん、なんらかのご病気の治療中で医師から水分摂取量を制限されている方は、医師の指示を優先してください。
このコラムの執筆をしながら、鈴木も水分摂取を心がけようと強く思いました。

今回のポイント

CKDの発症や進行を予防するため、高血圧や糖尿病などの管理が大事である。

AKIもCKDの発症や進行のリスクとなるため、回避すべきである。

AKIの発症リスクとして「感染症」「脱水」が挙げられているので、「感染対策」を徹底し、「こまめに水分を摂取する」

いかがでしたか?

今回はCKDの発症や進行に関わる要因の1つとして急性腎障害に着目し、その発症に関わる感染症や脱水を回避することの重要性について紹介しました。腎臓病の管理となると、ついアレもダメ、コレもダメ、となりがちですが、水分については「摂ってください」と勧めることができるのでいいですね。

「予防」の話をしていると、あたかも腎臓病になったら終わりのように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。最近は、腎臓にいい薬が続々と発売されています。大事なのは、なるべく早い時点で専門医を受診し適切な治療を開始することですので。。。

次回は腎臓病の「治療」について紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!!

だけど次回のコラムまで待てない!! 腎臓についてもっと知りたい!! という方はぜひ、やまうち薬局相生町店にお越しください。懇切丁寧に対応させていただきます!!

引用
1) KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury. Kidney Int Suppl 2012; 2: 1-138. PMID: 25018915
2) Epidemiology of acute kidney injury. Clin J Am Soc Nephrol 2008; 3: 881-886. PMID: 18216347
3) 「健康のため水を飲もう」推進委員会